通信班の紹介

通信班では,主に「Mobile IP」「エニーキャスト」「アドホックネットワーク」の研究を行っています.

Mobile IP

近年,屋内だけでなく屋外にも無線LANのアクセスポインタが設置され始め,さらに携帯電話やPDA等のモバイル端末にも無線LANが搭載されるようになり,移動しながらの通信が可能になって来ている.このような背景から,つくばエクスプレスをはじめとする高速移動体からの通信環境が急速に広がっている. 車や電車の内部からインターネットを利用する手法としてNEMO(Network Mobility)が提案されており,モバイルルータ(MR)と呼ばれる移動性を考慮したルータが代表してプロトコルスタックを持つことで,移動体ネットワーク内のノードがMobile IPv6に非対応でも通信を可能にしている.さらに,グローバルインターネットとAccess Router(AR)の間にMAP(Mobility Anchor Point)と呼ばれるルータを設置する階層型MIPv6が研究されている.この手法では,MAPにBU(Binding Update)による負荷が集中してしまい,通信の遅延やパケットロスが生じてしまうという欠点があるが,MAPを複数用いて多階層に配置するHMIPv6という手法により,MAPにかかる負荷を減らすことが可能となる. そこで,新幹線のように多数の人が同じ速度で移動するような環境において,移動端末を用いるユーザのアプリケーションとデータの大きさに応じて,MAPが管理する移動端末を決定する手法について研究を行っている.

Mobile IP
図1.NEMO(Network Mobility)の概要.

エニーキャスト

エニーキャストとは,IPv6で定義されたある特定のグループ(例えばDNSサーバなど)を指定して,その特定グループ内の最適な1台と通信を行う場合に使用される方式である.複数のインタフェースで「エニーキャストアドレス」という同じアドレスを共有し,このアドレス宛にパケットを送信すると,常にネットワーク的に距離が最も「近い」端末と1対1で通信する.インターネット上で同じサービスなどを提供するサーバを分散配置することができるので, 対障害性などを強化できるといった利点がある.

Mobile IP
図2.エニーキャストの概要.

<エニーキャストの例>
高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)の枠組みの一つとして,エニーキャストを用いた自動車のための地域別緊急通報システムがある.これは,既存の電話網と同様の緊急通報をインターネットで実現し,さらにインターネットに接続する自動車などの移動体端末からでも利用出来るように,アクセス網の地理的な経路制御にエニーキャストを用いるシステムである.  まず,このシステムでは通報用のエニーキャスト・アドレスを警察,消防の端末に与え,通報端末は地理的に最寄りの端末にエニーキャスト・アドレス宛のパケットを直接送信する方式にする.また,警察や消防の管轄区域とアクセス網において両者がカバーする地域が完全に一致する場合,管轄区域をまたいで隣接するルータではエニーキャストの経路情報を交換しない設定が必要になる.  さらに,サーバの障害対策として,サービスごとに予備となるものを用意する.

アドホックネットワーク

現在,携帯電話やPDAなどの無線端末の高性能化・小型化が進んだことで屋内外問わず様々な場所において通話やメール,インターネットなどのメディアを利用することが可能となった.本来こうした屋外などでの無線通信にはアクセスポイントと呼ばれる無線基地局が必要となる.しかし災害時にインフラが機能しない場合や,通信相手がごく至近距離にいる場合,インフラを介した通信形式は効果的ではない.
そこで近年研究が進められているネットワークシステムがアドホックネットワークである.これは基地局などのインフラを必要とせずに,無線端末同士で互いに通信,もしくはマルチホップ通信をしあい動的にネットワークを構築するもので,先ほど挙げたようなインフラが機能していない場合や,至近距離に通信相手がいる場合などに非常に有用なシステムである.
現在,アドホックネットワークの関する研究は盛んに行われており,その中でも多いのがルーティングプロトコルに関する研究である.アドホックネットワークにおけるルーティングプロトコルはプロアクティブ型とリアクティブ型の2つのタイプに分類出来,その中でもさらに通信方法やどのようにしてルートを構築するかなどの違いを持つ様々なプロトコルが提案されている.
戸川研究室では動的なネットワークに向いているリアクティブ型プロトコルに着目し,標準化されているAODVやDSRを拡張し,新たなプロトコルの提案を行っている.